北川フラムの対話シリーズ 知をひらく人たち
第2回「大岡信」 ゲスト:池澤夏樹(作家・詩人)
- SEMINAR
- 募集終了
このイベントは終了しました
ゲスト | 池澤夏樹(作家・詩人) |
---|---|
日時 | 2017年6月9日(金) 19:00-20:30 |
会場 | クラブヒルサイドサロン(ヒルサイドテラスアネックスB棟2F/東急東横線代官山駅より徒歩3分) |
定員 | 50名(要予約) |
会費 | 一般2,000円 クラブヒルサイド会員/学生1,000円 |
メール予約 | ①氏名(ふりがな) ②連絡先 ③会員/非会員/学生 ④参加人数 を明記の上、を明記の上、「6/9知をひらく人たち参加希望」の件名でE-MAILを送信してください。折り返し、予約確認メールをお送りいたします。 |
参考図書 | 『自選 大岡信詩集』 (岩波文庫) |
主催 | クラブヒルサイド TEL03-5489-1267 info@clubhillside.jp http://hillsideterrace.com |
共催 | 現代企画室 |
協力 | 代官山 蔦屋書店 |
登壇者
池澤夏樹(いけざわ・なつき)プロフィール
作家、詩人。
1945年北海道帯広市に生まれる。小学校から後は東京育ち。
以後、多くの旅を重ね、3年をギリシャで、10年を沖縄で、5年をフランスで過ごして、今は札幌在住。
1987年に『スティル・ライフ』で芥川賞を受賞。その後の作品に『マシアス・ギリの失脚』、『花を運ぶ妹』、『静かな大地』、『キップをなくして』、『カデナ』、『アトミック・ボックス』など。東北大震災に関わる著作に長篇エッセー『春を恨んだりはしない』と小説『双頭の船』がある。最新作は小説『キトラ・ボックス』。
2011年に完結した『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』に続いて、2014年から『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集』を刊行中。
北川フラム(きたがわ・ふらむ) プロフィール
1946年新潟県高田市(現・上越市)生まれ。
東京芸術大学卒業。アートフロントギャラリー主宰。
主なプロデュースとして「アントニオ・ガウディ展」、「子どものための版画展」、「アパルトヘイト否(ノン)!国際美術展」など。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」「瀬戸内国際芸術祭」、今年開催される「北アルプス国際芸術祭」「奥能登国際芸術祭」の総合ディレクターを務める。
イベント概要
その仕事と生き方を通して未来への針路を探るシリーズの第2回は、4月5日に逝去された現代日本を代表する詩人、大岡信さんを取り上げます。
その清新で実験精神に富んだ詩と批評で戦後詩を大きく変えた大岡さん。ジャンルを超えた芸術家との共作や芸術論も手掛け、「連詩」によって現代詩を国内外の詩人との協働の場へとひらいたことでも知られます。古今東西の詩歌を渉猟し、6762首を選んだ「折々のうた」は、詩歌を一般の人々の生活に取り戻す営為でもありました。
「孤心」と共同の往還のなかで、詩とことばの可能性を豊かに切り拓かれた大岡さんの仕事と生き方を、若き日に大岡さんの詩と出会い、詩への入口を見つけたと語る池澤夏樹さんと、50年に渉る「不肖の弟子」と自らを称する北川フラムが語り合います。
関連シリーズ
北川フラムの対話シリーズ
知をひらく人たち
戦後70年を経て、大きな転換点にある現在。
普遍性・多様性へと向かおうとしてきた意志が阻まれ、強烈な排他性が地球全体を覆おうとしている時代にあって、私たちはいかに他者とつながり、世界に向ってひらかれうるのか。
「知をひらく人たち」 第2回「大岡信」レポート



北川フラムの対談シリーズ「知をひらく人たち」第2回は、4月5日に逝去された大岡信さんをめぐり、作家の池澤夏樹さんをゲストに迎えて行われた。大岡さんと個人的にも親交のあったふたりが、その死を悼み、なつかしさをこめて、大岡さんの仕事、生き方、そしてそこから何を受け取ったかを語った。
池澤さんは、大岡さんは日本の詩をあるべき姿に戻してくれた人だと言う。若い日、思想を論じる日本の戦後詩が難解で、詩への入口がわからなかった池澤さんに、その扉を開いてくれたのが、大岡信であり谷川俊太郎の詩との出会いだった。モダンで、粋で、楽しい、この世にあるものたちを使って元気をくれる詩。そして自らも真似して詩を書いてみたが、どうも自分は詩にはむいていないらしい――それを教えてくれたのが大岡さんであり、小説を書くきっかけにつながったと池澤さんは語った。
大岡さんは詩人であると同時に、批評家だった。批評家とは、アンソロジーをつくる人だ。アンソロジーとは、ギリシャ語で「言葉の花束をつくる」という意味で、詩のアンソロジーをつくるということは、その時代の詩の形、精神を刷新し、風を送ること、美の基準を示すことであり、それぞれの時代に文学全体をリードする批評家がいた。紀貫之、定家、芭蕉、子規しかり。そして、大岡信。池澤さんは、戦後という時代に大岡信をもつことができたことが、どれほど大きなことかと語った。大岡さんが「折々のうた」をはじめ、多くのアンソロジーをつくったのは、まさにそういうことだったのだ。
池澤さんが大岡さんを個人的に知り、その慧眼に接することになったのも、『日本現代詩大系』全十巻の補遺三巻の編集に携わったときだった。今、『日本文学全集』をひとりで編集する池澤さんにとって、大岡さんはよき先輩だ。東日本大震災の後、自分たちはこの国土でどう生きてきたのか、日本人とは何かを問うなかで文学を手掛かりにしようと池澤さんが始めたのが『日本文学全集』の個人編集だった。古事記に始まる全30巻。しかし、古典は現代人にとって難しい。現代語訳が必要だが、文学は文体が重要で、それができるのが作家だ。その結果、現代語訳を作家に依頼するという手法が生まれた。それは、大岡さんが和歌を現代詩に訳しなおした仕事を思わせる。
大岡さんの詩は、明るい。選ぶ言葉も身近なものや、名詞が多く、具体的で気持ちがいい。つらい思いをうたっても、深刻ぶらず、さわやかな風が吹いている。ウィットや言葉あそびに富んでいる。そこには、「ゆたかで意義深い、情緒あるものが“うた”である」という大岡さんの思想が貫かれている。「大岡さんはふつうの人に詩を開放してくれた」と池澤さんは語った。
池澤さんの発言を受けて、北川さんは、大岡さんの「うたげと孤心」について語り始めた。それは自らが関わってきた大地の芸術祭や瀬戸内国際芸術祭等の地方の芸術祭をやる際の指針になっているという。『紀貫之』(1971)、『うたげと孤心』(1978)を北川さんが読んだのは、それが刊行された時よりも遥かに後のことだが、そこで大岡さんが日本の詩歌を渉猟するなかで見出していく、「うたとは相手との<やりとり>であり、人と人が<合わす>ことでありながら、一方で、いやおうなしに<孤心>に還らざるをえない。<合わす>意志と<孤心に還る>意志との間の往還があってこそ、うたは豊かになる」という原理が、芸術祭という<うたげ>と孤独な作業との往還のなかでアーティストたちがアートをつくる楽しさを回復し、その作品が豊かになっていく過程とまったく同じだと語った。
18歳で上京して大岡さんと出会い、世話になりながら、「闘えなくなる」と大岡さんのもとを〝脱藩″した北川さんだったが、芸大の学生運動の中、先生方との対決の場で耳の中に鳴っていたのは、大岡さんが著作『芸術マイナス1―戦後芸術論』(1960)に書いた「批評とは対象への深い愛だ」という言葉だった。そこを原点に「美術とはあて名のないラブレターだ」という北川さん独自の美術観が生まれていった。
それから20年近くを経て北川さんが大岡さんと〝再会″するのは、アパルトヘイト否!国際美術展を芸大で開催した時だった。北川さんが関わる展覧会を学生がやりたいという事態に、戦々恐々とする教授陣を説得し、開催への道をひらいてくれたのは、芸大の教授に前年になったばかりの大岡さんだった。以後、大岡さんは北川さんの仕事をさまざまな形で助けていく。それはまさに「蕩児の帰還」をあたたかく迎える家族のようだった。
大地の芸術祭では、信濃川をテーマとした高校生の詩の選考委員を引き受けてくれた。そこで大岡さんは、他の人がふるいにかけた詩から選ぶことを拒否し、応募されたすべての詩に眼を通し、自らすべての選考を行った。北川さんは大岡さんから「審査とは真剣勝負である」ことを学んだという。大地の芸術祭をはじめ、さまざまな公募をやり続け、すべてのプランを自分一人で選ぶというスタイルはそこから生まれた。
大岡さんは、JAXAが主催する「宇宙連詩」でも「さばき手」を引き受けてくれた。かつて「わたしは月へは行かないだろう」という詩を書き、自身はあまり宇宙に興味がなかったにもかかわらず、北川さんがやることだから、とつきあってくれた大岡さん。あるいはペンクラブの会長や歌会始の召人をはじめ、さまざまな〝役割″を引き受けていった大岡さんは、しかし、きわめて現状に対して批判をもった「たたかう人」だったと北川さんは言う。規制するものに対して腹を立て、〝パフォーマンス″としてではなく、清新な心をもって行動できる少年のような人だった。そしていつもニコニコしていた。大岡さんが文学、そして処世の中で貫いた精神は、自分の背中を押し、生きるとは何かを骨格のところで教えてくれた、と北川さんは語った。
最後に池澤さんが「地名論」を、北川さんが「はる・なつ・あき・ふゆ」を朗読し、対談は終わった。
会場には、夫人のかね子さんをはじめ生前の大岡さんを親しく知る人たちもいて、大岡さんから受け取ったものをひとりひとりがしみじみと思う、あたたかな空気が流れていた。
その膨大な著作を読む愉しみが遺されていることに感謝しつつ、あらためてご冥福をお祈りいたします。
(クラブヒルサイド・前田礼)
【お知らせ】
大岡信さんを送る会
日時:6月28日午後6時~8時(献花5時~)
会場:明治大学アカデミーホール(東京都千代田区神田駿河台1の1)
主催・問い合わせ:大岡信研究会事務局 03(3291)6569
一般の方でも参加できます。
詳しくは
https://kotobakan.jp/info/ookamakoto0628.html